眼鏡をかけずにそのまま放置すると、近視がどんどん進行してしまう…という話をあなたは聞いたことはありませんか。

眼鏡をかけたほうが近視の悪化を防げると信じている人がたくさんいます。しかしそれは俗説にすぎず、むしろ眼鏡をかけつづけていると、近視の悪化するケースが非常に多いのです。これは一体なぜでしょうか?

私は、近視の人が自分の視力にピッタリだと思って作った眼鏡の度数が、必要以上に強すぎること、つまり視力の過矯正に原因があるのではないか、と考えています。
近視の人たちの多くは、眼鏡をかけることで視力をできるだけ上げたいと考えているようです。実際、矯正後の視力が1.0以上になるような眼鏡を要望する方がたくさんいます。

近視というのは、遠くが見えない状態なので、なるべく遠くが見える眼鏡を作りたくなるのは、しかたがないかもしれません。
しかしながら、日常生活の中で、遠くをしっかり見なければならない機会は意外に少なく、多くの人は1日の大半の時間を近くばかり見て過ごしています。

朝起きて新開を読む、料理を作るときに手もとを見つめる、仕事でパソコンの画面を見る、本を読むなど、近くを見つづけている時間が圧倒的に多いのです。
つまり、視力を1.0以上に矯正する眼鏡を1日中かけている人は、遠くを見ることに重点を置いて作った眼鏡を使って、近くのものばかり見つづける生活を送っているわけです。このように、必要とされる視力以上に矯正された過矯正の眼鏡を使いつづけることは、目にとつて大きな負担となります。

私たちの目には、近くでも遠くでもよく見えるようにピントを調節する働きが備わっています。例えば、近くを見るときには、水晶体(カメラでいえばレンズに当たる部分) が厚くなって目に入る光の屈折(光の進行方向が変化すること) を強め、反対に遠くを見るときは、水晶体が薄くなつて目に入る光の屈折を弱めます。

こうした調節を行うことで、目の奥の網膜(カメラでいえばフイルムに当たる部分) にピントの合った像が結ばれるのです。この水晶体の働きは、水晶体の周囲にあるピント調節筋(正確には毛様体筋) によってコントロールされています。

具体的には、毛様体筋が収縮して緊張状態になれば水晶体が厚くなしかんり、弛緩して緊張がほぐれれば水晶体は薄くなります。

では、過矯正の眼鏡をかけて近くを見るとどうなるでしょうか。遠くがよく見える状態で近くを見るのですから、網膜上にピントの合った像を結ぶためには、水晶体をかなり厚くしなければなりません。そのとき、毛様体筋には強い緊張が強いられます。しかも、眼鏡の度が強ければ強いほど、毛様体筋の緊張も増大します。そうした状態が長期間続くと、毛様体筋は硬直し、ピント調節力がどんどん低下して視力が落ち、近視になってしまうのです。遠くが見えなくなったといって、次々に度の強い眼鏡に替えていく人がいますが、こうした人は、常に過矯正の状態を作り出して、知らず知らずのうちに近視を悪化させているのです。

軽い近視であれば、視力を取り戻せますが、毛様体筋の緊張をそのまま放置していると、視力を戻すことの難しい本格的な近視になってしまいます。